フラッグフットボールの授業が初めての先生でも学びの多い授業ができる。-第4学年「ゲーム領域」ゴール型の実践-の紹介
フラッグフットボールを全く知らなかった女性教師が実施したフラッグフットボールの授業を紹介します。
授業実施に向けて、是非参考にしていただければ幸いです。
白旗和也:日本体育大学
授業者 徳島市立川内北小学校 教諭 小濵智香
魅力的な授業ができた
「よーし、今度は作戦8番でいこう」「次の試合に勝って優勝目指すぞ」2016年の1月末、徳島市立川内北小学校の校庭にはそんな声が響いていた。やる気に満ちた子どもたちの顔、チームで声を掛け合い休み時間に練習をするほど、フラッグフットボールにのめり込んでいた。この授業をしたのは、小濱智香先生。実は、今年が始まった1月1日の時点では、フラッグフットボールについてほとんど知識が無かった。以前、他校の授業で見たときも、果たして子どもたちは楽しいのだろうかと疑問に思ったと言う。
それが、数週間のうちにここまで子どもたちを熱中させるには、いくつかの要素があったといえる。1つ目は小濱先生がフラッグフットボールの授業のための理解を深めたこと。2つ目は、先生と子ども、そして子ども同士の信頼関係が深まったこと。3つ目はフラッグフットボールという教材に魅力があること。
まず、準備にあたって
できるだけ、小濱先生の力で進めたかったが、はじめに先生が知っておかなければ授業をつくる上で難しいことがいくつかあった。例えば「フラッグフットボールは、どんなゲームなのか」「どんな学習ができるのか」「何が魅力なのか」「どのように深めればよいのか」などである。そこで筆者が小濱先生に参考となる資料を紹介した。小学校学習指導要領解説体育編、小学校体育まるわかりハンドブック、デジタル教材、学校体育実技指導資料第8集「ゲーム・ボール運動」(いずれも文部科学省著作物)、そしてフラッグフットボール協会資料のフラッグフットボールサポートガイド(映像含む)である。もちろん、質問があれば、それに応えつつも単元計画を作ってもらった。8時間扱いの単元の概要は下の表1の通りである。
1時間目 単元前半
まずは楽しく、そして無理のない学習から入れるように「ボール運び鬼」からスタート。攻めのチームは1人1個ボールを持ち、縦横無尽にゴールめがけてボールを運ぶ。守りのチームは果敢にフラッグをねらうが、なかなか思うように取れない。そのうち、フェイントをかける子どもや体をねじってかわす子どもも現れた。守りの子どももはさみうちなどをはじめた。
少し、動きに慣れたところで、簡易フラッグゲームに移行。その前に、この単元で、もめ事があった場合は、いつも立ち返るように必ず守る約束事を明確に示した。これがあとあと効いてくる。
そして、簡易フラッグフットボールのルールはシンプルにする。シンプルにしておくことで、フラッグフットボールの学習の要点が理解しやすくなり、もっと楽しくするためのゲームの工夫が生まれやすくなる。
今日の学習のねらいは「協力してみんなでボールを運ぼう!」
【ルール】
- 攻撃側は3人。守りは2人。
- 攻撃側は3人でタッチラインまでボールを運ぶこと。
- パスは手渡しのみ。投げてはいけない。
- 攻撃を4回(毎回メンバーは変わる)したら、攻守交代する。
実際にゲームをしてみると、先ほどまでは、各自が自由にボールを運べていたのに、ボールが1つになったとたん、プレー中に迷って立ち止まったり、子ども同士で交錯したりでなかなかタッチラインまで進めない。ここで小濱先生がねらっていたのは、「1つのボールをみんなで運ぶためには、動きの約束事=作戦を立てることが有効」であることに気付かせることであった。
「作戦を考えればうまくいきそう。」そんなつぶやきが子どもたちから聞かれた。
2時間目
前回に子どもたちが気付いた「作戦を立てることが有効」という知識を大切にしながら、攻撃の仕方を工夫できるようにルールを教師側から示し、前半には作戦ボードを使いながら、チームごとに作戦を立てる時間を確保した。特にルールでは、得点を取る意欲が高まるようにタッチダウン制ではなく、進めた所までを得点とするボックス型を採用した。
授業の前半は作戦を考え、相手チームと試す時間を確保した。思うように作戦が功を奏しないグループが多く、作戦に発展性が見られない。作戦がうまくいかないことで子どもたちの意欲は停滞気味であった。
そこで、後半の第1ゲームをする前に、1つのヒントを出した。ボールの持ち方である。ほとんどのチームはボールが丸見えであったため、ボールを隠しながら持つ方法を確認した。この段階では作戦を教師側からは提示せず、「もっとよい作戦を作りたい」という意欲をより高めるため、子どもたちの気付きを大切にしながら4回の攻撃分の作戦を考えることとした。
ゲームでは、ボールの持ち方を工夫する姿が見られたが、まだ、連携した動きはあまり見られず、個人の走力に依存した得点シーンが目立った。それは子どもたちも自覚しているようであった。ゲームでは勝ち負けがはっきりするが、小濱先生は負けたチームにも態度面でよいところがあったことを紹介し、チームワークが育つようコメントしていた。また、はじめに示した約束事ができていたかを振り返ることで、ゲームの進行がスムーズにいったり、余計なトラブルが発生しないような環境づくりをしたりすることができていた。
3時間目
この時間から、授業のねらいは「みんなで工夫してボールを運んで、得点を取ろう!」とした。各チームの練習とゲームを中心に学習を進めた。前時でも同様であったが作戦を立てたもののうまく連携できず、作戦が実践に結びつかないチームが多く見受けられた。また、勝っているチームも作戦を教えたくないので発表しない。そのため、作戦を工夫することや作戦をうまく立てたことが得点や勝利に結びついた成就感を得られにくい状況であった。
そこで、1試合目終了後の振り返り場面で、作戦(フェイク)の基本スタイルを提示した。大きく3つの基本スタイルを示し、これを活かしながら作戦を工夫することとした。
このことで、まずは誰が持っているのかわからない状況を作る、という作戦の押さえどころがはっきりした。
各チームでの練習を経ての第2試合、①「わたす-わたさない」②「わたす-わたす」③「わたさない-わたさない」の3種類の基本スタイルを組み込んだプレーがいくつも見られた。学習のまとめでもこれらのプレーを取り入れた作戦がうまくいったという声が多く聞かれた。得点も増加傾向であった。
4時間目
単元前半の最終時間であった。学習課題の確認では、前時に扱った3つの基本スタイルを再確認し、それを使って作戦を作ることを助言していた。練習では、3つの基本スタイルを取り入れたバラエティ豊かな作戦が繰り広げられた。子どもたちは早く試合をしたいようであるが、先生は、あまり勝てないチームを中心に、練習の仕方や作戦の立て方について助言して回った。特に3つの基本スタイルを取り入れているチームを称賛していた。このため、ゲームでも子どもたちはこれらを活用した作戦を多用しており、2試合を通じて、誰がボールを持っているのかわからないようにする基本スタイルが浸透していった。しかし、それに対して、ディフェンス力も高まってきており、単純に基本スタイルを取り入れるだけでは、タッチラインまで到達できないことも増加した。
そこで、学習のまとめの時間には、意欲付けとして次回からは「リーグ戦で優勝を目指すこと」を伝え、さらに作戦が発展できるよう「パスを取り入れること」を確認した。パスを取り入れることは、子どもたちの提案であった。
5時間目 単元後半
本時からは単元後半に入り、パスプレーを入れてのゲームになる。この時間からはねらいが「みんなで作戦を工夫して,パスを生かして得点を取ろう!」になった。新しい学習に入るときは学習指導場面で、十分時間を取り、子どもたちに要点をきちんと押さえる指導をしていた。理解した上で、それを生かした学習をするスタンスである。本時では、新しいルールによる作戦の試行錯誤と試しのゲームが中心である。
【新たに加えたルール】
- スタートゾーンの中からのみパスが前へ1回できる。
- パスをキャッチしたらタッチラインを目指す。キャッチできた場合は、キャッチ点としてキャッチした地点の得点も加えられる。
- パスを落としてしまったら,攻げきは終了。ただし、ボールにさわることができたら、その地点の得点が入る。パスを全くさわれなければ、0点。
- 1回のプレー事にメンバー交代。全部で4回の攻撃ができる。攻撃の前には,1回ごとに作戦の確認タイムをとる。
この時間は、初めてパスが入ったため、基本的にパスプレーによる作戦を立てるようにした。そして、それを生かし、ゲームの仕方を理解できるよう、練習の時間をたっぷりとった。しかし、チーム練習になると、投げ手と受け手のタイミングが合わなかったり、ボールは1号球のスポンジ制ハンドボールを使っているのに、なかなかキャッチできなかったりなど、作戦を実行しにくい状況が見られた。この場面で先生は、「まずパスが成功できる近いところでプレーしてごらん。」と助言をした。このことにより、止まったままだった受け手に動きが見られるようになった。練習をしていく中で、ルールに無かった「守りがカットしたら、どうなるのか」といった疑問が出され、試合前の話し合いで「カットされたらパスが通らなかったと見なし、0点」とすることが決定された。このことは体育の学習における「思考・判断」のルールの工夫という大切な学習に当たる。
試しのゲームでは、ついついパスすることばかりに気が行ってしまいがちなことから、先生はチームを回り、作戦の確認とそのための役割の確認をして回った。また、キャッチするための動きについて発問し、子どもたちから引き出していった。また、得点が複雑になったため、正しくできているかもチェックしていった。一通り、4回ずつの攻撃が終了したが、ルールについて十分理解していない面も見受けられたことから、更に2回ずつの攻撃をすることにした。この判断が、次回以降のルールの迷いを払拭することになる。
まとめの時間では、ゲームで困ったことを聞き取り、ルールを更に鮮明なものにした。また、子どもたちから作戦を成功させるために、ランプレーも組み入れたいといった意見が出され、次回からはそれを認め、勝ち点で競うリーグ戦を実施することとなった。
6時間目
本時からリーグ戦開始。どうしても勝敗ばかりに関心が行く可能性が高いことから、学習カードでうまくいった作戦について、詳しく書けているものを紹介した。詳しく書けることは作戦をよく理解していることだからである。また、他チームに攻められた作戦を取り入れていくことで作戦の幅が広がることも確認した。小濱先生の授業では、練習で作戦をしっかり身に付けることを大切にしているところが特徴で、よく子どもたちに浸透していた。練習時間には先生がこまめにチームを回って助言をした。フラッグフットボールでの子どもの動きを観察してきたことで、先生自身の知識も豊富になり、具体的な助言が増えてきた。また、ゲームとゲームの間の確認タイムでは、自分たちがうまくいった作戦を披露するのではなく、相手チームの見事だった作戦を発表することにした。これは、言われたチームも悪い気がせず、発表を聞いたチームが真似をすることができ、大変有効であった。これらが相まって、ランプレー、パスプレーが豊富に広がり始めた。この時間からは、なかなか勝てないチームを集中的に支援する方針にし、作戦に基づく具体的な動きの助言や励ましをしていった。このことで、この後、リーグ戦は大混戦になる。しかし、最後に問題が起きる。試合に慣れてきたせいか、審判の仕方に集中力がなくなり、得点でもめてしまった。先生は、この立て直しが重要と考え、再度、ゲームにおける審判の位置や判定に関する態度について徹底を図った。
7時間目
前時の反省から、ゲームでは審判の仕方やプレーヤーの態度の在り方について確認を行った。特に審判については具体的な役割を再確認した。このことで、その後の試合は引き締まったものとなった。作戦については、子どもたちが休み時間まで使って練習をし、どのチームもかなりの数まで増えていたことから、得意とする作戦を絞り込むようを助言した。「選んだ作戦については、メンバーの誰が出てもできるように練習しよう」と助言したことから、練習ではいろいろ試すことから、よい作戦を選択し、洗練する状況になった。先生は第1試合において、審判の仕事の確認とピックアップをした気になるチームに称賛的助言と誰がどのように動くのかを確認する矯正的具体的な助言を中心に声かけをする姿が目立った。先生が気持ちを込めながら助言することで、どのチームも一丸となってゲームをする様子が見られた。第1試合終了後の確認時間では「マークされてパスが出せない時はどうしたらいい?」とボール持っていない人の動きを考えさせた。縦の移動、横の移動によりスペースを生み出すことを確認した。第2試合では、ボールを持たないときの動きを意識する姿が見られた。先生が助言したポイントを子どもたちが生かそうとする様子から、確かな信頼関係が伺えた。
8時間目
リーグ戦、最終日である。はじめの学習指導場面では、これまで取り組んできた動きの要点、特にボールを持たないときの動きと状況に応じた作戦選択について確認した。本時ではこれまで1位のチームと最も心配しているチームが対戦する。小濱先生は、心配なチームに具体的な動きの確認を行い、気付いていないことには積極的に助言をした。その結果、先生の思いを受け取ったそのチームは僅差で逃げ切ったのである。勝ち点は1位から6位までわずかな差となる大混戦であった。全てのチームが勝ちを経験し、作戦の実行については自信を持てている表情が伺えた。これは、小濱先生が全体に課題を提示し、プレーのレベルアップを目指しながらも、勝てないチームを対象に、こまめに具体的な助言や励ましを繰り返してきた成果であろう。これで全てのチーム同士が対戦を終えたので、最終試合は、対抗戦とした。勝ち点で6位のチームから、最後に対戦したい相手を選ぶのである。この試合の結果も加えて最終的な順位を決定することとした。最後の試合という意識が強いためか、それまでのどの試合よりも気持ちの入った全力プレーが多く見られた。最終戦が終了し、順位発表の際は、優勝チーム以外、みんな悔しがっている姿が印象的であった。最後に、先生が1チームずつよさを取り上げて、みんなに紹介をしたことで、笑顔を取り戻した。こうした各チーム、各自を大切にする先生の姿勢がクラス全体に醸し出されている大変素晴らしいフラッグフットボールの授業であった。
授業者の感想
初めてフラッグフットボールをやってみて感じたことは,学級経営にも大きく影響があるということです。作戦を立ててチームで協力してゲームを行うということを通して子どもたち同士が今まで以上によりつながり合えるようになったような気がします。休み時間には、長なわでいろいろな男女が混じって遊ぶ姿がよく見られるようになり、以前と比べて仲良く遊ぶようになりました。子ども達の授業の感想では、「楽しかった」「仲間とより仲良くなれた」「協力は大事」などと言う子が多く、仲間を意識する子が多く見られました。クラスがより団結して助け合ういいクラスになったと感じました。
授業に関しては、ゲーム領域を最初から丁寧に単元計画を作り上げて行ったのは初めてで、分からないことが多くありました。もちろん今までも、授業をやったり研究授業を見たりはしてきたのですが、授業の組み立て方や作戦の作り方、ゲームの行い方など自分の中で明瞭にはなっていませんでした。今回やってみたことで、ゲーム中の教師の立ち位置やコートの配置など、初歩的なことも分かっていなかったことにも気付き、たくさん勉強になりました。特に、作戦の立て方、どういう言葉かけをしたらよいか、学習カードをどう書くか、チームカードと学習カードの必要性、ルールをみんなで作り上げる最初が肝心で丁寧にすること、などが明確になったように思います。作戦の立て方は、どう立てたらよいか全然分かっていなかったので、子どもたちの作戦カードや動き方などを観察することで大変勉強になりました。そのおかげか、先日見に行った体育の研究授業では、見る視点を明確にして見ることができていました。その際、指導案も、以前の自分に比べると、より分かりやすく見ることができました。研究協議でも参会者が言っている内容に、自分なりの意見をもって聞くことができました。それに自分でびっくりしています。
学習指導要領解説や文部科学省から出ている資料、日本フラッグフットボール協会からの資料などで、授業づくりが分かりやすくできました。初めてのフラッグフットボールで最初は不安がありましたが、様々な資料の活用と適宜いただいた白旗先生の助言のおかげで安心して授業に臨むことができました。子ども達にどんな力をつければよいか、ゲームのやり方、授業をする上で押さえるべき大切なポイント、動きのポイントなどを理解することが必要だと分かりました。今後も、教材研究をして、更にがんばりたいと思います。
子どもの感想から
〇私は、初めてフラッグフットボールを知ったとき、難しいゲームだと思ったけど、やってみるとチームで作戦を立て、仲間と協力してやるゲームだとわかりました。仲間と作戦を立て、練習し、実際に試合をする一人一人が仲間を信じてゲームをすることができました。時々失敗することもあったけど、仲間同士で励ましてどうしたらいいか考え、あきらめずにがんばりました。
〇フラッグフットボールをすると聞いたとき、どんなゲームかわからなかったけど、やってみるとこんなに楽しいスポーツなんだとおどろきました。作戦もいろいろ作れるからそれも楽しいし、それを成功させたときはすごく達成感がある。こんなスポーツに出会わせてくれた先生に感謝します。
総評
子どもが変容し、教師にとっても自信がついた授業であった。子どもの変容は、フラッグフットボールの授業を十分楽しみ、チーム内でのかかわりが深まり、作戦の工夫ができたことで、自分のよさにも気付き、自信につながったことの表れである。フラッグフットボールを足がかりに、体育の授業、そして運動そのものを一層好きになった子どもも増えた。その要因を作ったのは、教師である。しっかりとした教材研究に裏打ちされたゲームのルールの工夫、各チームや個人への励ましや、作戦・動きに関する具体的な助言、これらをきめ細かく、そしてわかりやすく、継続して行うことで子どもたちは大きく変容していった。また、そこにはフラッグフットボールの魅力も見逃せない。作戦に基づき協力したプレーを核としたフラッグフットボールは、作戦を工夫する思考・判断とチーム一人一人の協力なくしては成り立たない。この教材の魅力は体育の学習によくマッチしているといえるだろう。そして、その魅力を理解し、ポイントを押さえた指導ができれば、どの教師でもこの授業のように子どもたちを変容させる学びの多い授業ができる可能性があることを証明してくれた。
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